足跡めいっぱい

久しぶりに、靴に油をすり込んだ。しばらく手に取っていなかったから、よくしみ込む。靴の革には哺乳動物の油。木には木の油。人には人の油!? 買ったばかりの頃は、結構頻繁に手入れしてたっけ。使い込んでいくうちに、なじんでくるとともに手入れがおろそかになるのは常のこと。身近なものほど,特別に扱うのは難しい。
この靴で、ずいぶんたくさんの地面を踏んだ。初めて足を入れたのは、十数年前。あちらこちら行動範囲が広がっていったのもその頃からだから、散歩遍歴のほとんどの場面に立ち会ってきたことになる。上着は脱げても、下着は取り替えても、靴はいつも足下に。海のずーっと向こうの土地で、朝起きたら荷物がなかったときも、靴があっただけでホッとしたのを覚えている。移動できるというだけで、安心できる。
実は一昨年の旅先で、そろそろ靴を買い替えようかと思った。10年履いた、この靴の生まれた国。記憶に残る、いい機会かもしれない。新しい出会いがあったら手にとってみよう、と思っていた。出かける前に入れた中敷きがだめになって、旅先で新しいものを買い求めたほど歩いていたけど、結局この靴で帰ってきた。まだオレ(わたし?)が面倒見てやる、ということか。
正確に言うと、靴底を2度張り替えているから、以前と同じ足跡は踏んでいない。もっと言うと、一歩ずつすり減って、足跡はいつも新品。でも心臓の鼓動のように、歩きつづけたいと、いつも落ち着かないこの足を包んでくれているこの靴は、変わらない。足下がしっかりしているということ。いつでもどこにでも歩いていけるということ。大きな安心感で支えてくれている。もう少し、頼ってみよう。